広告時代のぼくがどんな映像を作っていたかといえば、それは料理で言うと濃厚なソースを絡める一皿だった。
どんな食材であろうと、ソースを纏えば美味しい料理に変身する。そういうソース作りに精を出していたと言ってもいい。
そしてそれこそが広告の力であると信じていた時期もあった。
出来上がった映像はたしかに見栄えがしたが、同時にAという商品からBという商品に取り替えても成り立ってしまう
素材不在の映像だった。ぼくはこのソース作りに没頭していたし、ありとあらゆる材料を用いてより美味いソース作りに勤しんだものだ。
やがてそうした映像作りに疑問を持つようになり、そしてぼくはソース作りをやめた。
ひとの役に立ち、人々を幸せにする映像作りとしてGRIT JAPANを始めたとき、ぼくはもう二度とソースはつくらないと決心をした。
塩しか振らないことに決めたのだ。
それも味付けのための塩ではなく、素材の持ち味を引き出すための塩打ちだ。
素材と塩という徹底的にシンプルな世界を追求する。すべての食材がそれぞれ固有の味をもつように、
GRIT JAPANで肖像画をつくってくれるやり抜く人々の味は千差万別だ。
ぼくはその一番フレッシュなところをとらえ、一番美味しいところを見つけて塩を打つ。
塩加減は難しい。たぶんこの世界を突き詰めていく限り、一生勉強なのだと思う。
だけどこれが一番素材の旨味を引き出す方法だと信じているから、塩だけをふる。